こんにちは。福田泰裕です。
令和2年度の政策『GIGAスクール構想』として、教員と生徒たちに1人1台タブレットが支給(貸与)されました。
この記事では、私が勤務する高校の授業で実践している『個別最適な学び』を提供する、タブレットで動画を利用する授業についてご紹介します。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
目次
高校では、令和3年度から新しい学習指導要領が年次進行で実施されます。
この新しい学習指導要領では『個別最適な学び』と『協働的な学び』の2本の柱が掲げられています。
『個別最適な学び』とは、「学習内容の確実な定着を目指す『指導の個別化』」と、「学習を深め広げる『学習の個性化』」の2本柱で構成されており、自ら学習を調整する能力の育成も掲げられています。
教師には従来の一斉授業ではなく、生徒1人ひとりに応じた学びの機会を提供することが求められているのです。
多くの学校、多くの教員によって行われる『高校の数学の授業』というのは、
例題の解説→問題演習→問題の解説
という流れを繰り返すものでした。
問題演習の時間に生徒たちの解くノートを覗き見て、個別指導に当たる…という形式が一般的です。
しかし、この『従来の一斉授業』には大きな問題点があります。
『例題の解説』が理解できなかった生徒は、問題演習の時間に何もできない
ということです。
手を挙げて教師が来てくれるのを待ち、「分かりません」と謝ってからもう一度解説してもらうしかありません。
しかし、そのような数学が苦手な生徒に合わせてゆっくり授業を進めると、今度は数学が得意な生徒が退屈してしまいます。
つまり『従来の一斉授業』では、得意な生徒に合わせれば苦手な生徒を置き去りにしてしまい、苦手な生徒に合わせれば得意な生徒が退屈してしまうのです。
『どのように進めても、誰かが損をしてしまう』ということです。
私はこの授業スタイルに疑問を持ち、改革することを決意しました。
令和2年度の政策『GIGAスクール構想』により、私の勤務する山口県の県立学校では、授業で使用するほぼすべての教室にWi-Fi環境が整備され、電子黒板も設置され、教員と生徒に1人1台のタブレットが支給されました。
それにより『従来の一斉授業』を行っていた私の授業スタイルも、数学が得意な生徒から苦手な生徒まで、全員が自分のペースで学習を進める授業を目指し大きく変化しました。
それは、生徒がそれぞれのタブレットで授業動画を観て問題演習に取り組むという授業です。
私が担当している数学B「数列」の授業で実際に利用している動画を1つ紹介します👇
(進研模試の偏差値が40~50の生徒たちを想定して喋っています。)
この授業動画の準備方法から、実際の授業の流れまでをご紹介します。
まずは、授業動画の準備です。
普通に黒板に向かって授業する動画を撮影しても良いでのすが、私はPowerPointの録画機能を利用することにしました。
私は数学の授業でプリントを作成しています。
Texでも、Studiyaidでも構いません。
作成したプリントをPDF形式で出力し、そのPDFファイルを
『Windows』+『Shift』+『s』
のショートカットキーでスクリーンショットを撮影し、PowerPointへ貼り付けていきます。
次に、解説を行う際に必要な文字や図形などを、アニメーションで入れておきます。
スライドが完成したら、いよいよ授業動画の撮影です。
PowerPointにはプレゼンテーションの録画&録音機能があるので、それを利用していきます。
「スライドショー」タブ→「スライドショーの記録」をクリックします。
あとは左上の「記録」ボタンを押せば、スライドショーの録画&録音が始まります。
このPowerPointの録画&録音についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、ご覧ください👇
次に、作成したmp4形式の動画ファイルを、Youtubeにアップロードして公開します。
私は個人のGoogleアカウントでYoutubeアカウントを作成し、動画をアップロードしていきます。
普通の検索で見つかって欲しくない(恥ずかしい)ので、私はすべての動画を「限定公開」にしています。
「限定公開」にすると、リンクを知っている人しか動画にアクセスできなくなります👇
ちなみに、「なぜYoutubeなの?」と思われるかもしれませんが、
というメリットを考えて、私はYoutubeを選びました。
公開した動画をGoogle Classroomで生徒たちへ配布します。
Classroomの「授業」から「資料」を選び、「リンクを追加」から動画URLを貼り付けます👇
(※ 私は授業プリントの解答PDFも一緒に配布しています。)
「保存」をクリックして、生徒への配布は終了です👇
ここまで準備できたら、プリントを印刷して授業を迎えるのみです。
授業が始まったらプリントを配布し、生徒たちはそれぞれタブレットからGoogle Classroomを開いて授業動画を観ます。
プリントに適宜メモを取りながら動画を観て、解説を聞き終えたら練習問題に取り組みます。
解き終わったら問題の解答が書かれたPDFファイルを見て、正解していれば次へ進みます。
早く終わった生徒は、問題集に取り組みます。
これが私の実践している、タブレットで授業動画を利用した『個別最適な学び』を提供する授業です。
授業動画を利用することで、様々なメリットがあるので紹介します。
上で述べたように、一斉授業では苦手な生徒を置き去りにし、得意な生徒は退屈してしまいます。
そのような一斉授業のスタイルでは、
まだ解けていない人もいるけどゴメン!
次の問題に行きます…!
という事もありました…。
しかし生徒がそれぞれのタブレットで授業動画を観る授業の場合、苦手な生徒は授業動画を繰り返し観たり、停止して考えたりすることができる一方で、得意な生徒はどんどん学習を進めることができます。
生徒が自分で学習のスピードを調整できるので、誰も置き去りにすることなく、それぞれが最適なスピードで学習を進めることができるのです。
従来の数学の授業では生徒たちが問題演習を行う間、教師は机間指導を行って個別に指導していました。
新しい学習指導要領の「個別最適な学び」の柱として、 「学習内容の確実な定着を目指す『指導の個別化』」 が掲げられています。
生徒たちが躓くポイントや間違えるポイントはそれぞれ異なるので、個別指導はとても重要です。
しかし、1回の授業で個別指導できる時間は何分あるでしょうか?
私の従来の授業スタイルでは、1回の授業(50分)のうち解説は25分程度で、個別指導に充てられる時間はおよそ25分でした。
それがこの授業動画を利用するスタイルに変えると、生徒たちが授業動画の解説部分を観ている間も個別指導ができるので、なんと50分すべてを個別指導に充てられるのです!
生徒たちがどこで間違えやすいのか?
生徒たちがどの程度まで理解できているのか?
生徒たちは既習事項をどこまで定着できているのか?
そういった事を、50分すべてを使って観察することができるようになります。
まさに、『指導の個別化』を完全に体現できているのではないでしょうか。
授業動画はYoutubeにアップロードされてGoogle Classroomで配信されているので、後からいくらでも見直すことができます。
テスト前の勉強で例題の解き方や公式の使い方を忘れてしまったとき、もう一度授業と同じクオリティで説明を聞くことができるのです。
ただし私は生徒たちに、
普段の復習やテスト前の勉強にぜひ使って欲しいけど、動画を観るだけでは数学ができるようにはなりません。
動画を観て解法を覚えたら、実際に問題を解いて解いて、解きまくるのが一番です。
動画を観るだけでテスト勉強を終えないように!
と、しつこく話しています。
動画を観て安心して、そのままテストに来て痛い目に遭う生徒を減らしてあげなければなりません。
動画はYoutubeにアップロードされているので、自宅からでも動画を観ることが可能です。
欠席しても自宅で動画を観れば、同じように授業を受けることができます。
(個別の指導はできませんが…)
もちろん後日でも動画を観られるので、学校に来られるようになってから、授業の時に前の時間の動画から再開することも可能です。
授業の前には、
今日の授業、うまく進むかなあ…
計画通りの進度になるかなあ…
50分の配分は上手くいくかなあ…
などと考えてしまい、様々な不安を抱えながら授業に臨みます。(私だけ?)
この「小さな不安 × 授業時数」が1日分溜まれば、そこそこの疲労になるのです。
しかし授業動画を準備していけば、授業本番では個別指導をするだけです。
つまり、上で挙げたような授業前のストレスを感じることは一切ありません。
この小さなストレスを感じずに1日を終えることができると、勤務終了時の疲労感がまるで違います。
授業による疲労がほとんど無いので、クラス経営や校務分掌の業務に集中して取り組むことができ、さらに時間的余裕が生まれるという相乗効果を生みます。
実際に授業動画を利用して授業を行う際、私が気を付けていることを挙げておきます。
まず最も気を遣っていることは、前で全体に向けて解説しないことです。
数学の授業では、大体の生徒が躓くポイントは同じです。
多くの生徒が同じような所で間違えたり、質問したりしてきます。
そんなとき、
これは、前で言えば一回で済むなぁ…
と思うのが普通ですが、そこは踏みとどまります。
黒板を使って全体に向けて解説すると、確かに説明は1回で済みます。
しかし、それが本当に生徒の耳に届いて、記憶に刻まれているのでしょうか?
解説の効果が最も高いタイミングは、実際に間違えてから指摘されたときと、自分で考えても分からずに質問したときです。
その問題を解く前に教師から「○○のところは、◇◇です!気を付けてね!」と言われても、それは生徒たちの記憶に残りません。
授業中は個別指導する時間がしっかりあるので、生徒たちのノートをしっかり観察して、間違いを見つけたら「なぜ間違っているのか」を丁寧に説明するようにしています。
生徒たちも、一度自分の頭で考えた事なので、指摘されたことがスッと頭に入るはずです。
私たち教師というのは、生徒たちにすぐ答えを教えてしまいがちな生き物です。
生徒たちが「うーん」と考えていると、すぐに「そこは…」と教えてあげたくなります。
しかし、そこは我慢です。
解説動画を観て、問題に取り組み、分からなければもう一度動画を観たり、過去のプリントを見たりして、じっくり考える…
考えても分からなければ、答えを見る。
答えを見て、じっくり考える…
それでも分からなければ、周りに聞いたり、教師に質問する。
…という流れを取っています。
この『じっくり考える…』というのがとても大切で、すぐに教師が答えを教えたり、すぐに周りの友人に聞いていては一向に数学の力が身につきません。
私が生徒に声を掛けるのは、基本的に生徒が①間違えているときと、②手を挙げて助けを求めているときのみです。
考える時間をつくるために授業動画を作成しているので、じっくり考える時間を大切にしています。
高校数学というのは、解説を聞いただけで得意になることはありません。
自分で問題を解くことで、記憶されたことが整理されていく教科です。
数学の成績を上げるためには、とにかく問題演習の時間が重要です。
問題を解けば、その日に学習したことが理解できているのか分かります。(振り返りシートなんて書かなくても、問題を解けば分かります。)
さらに、学習したことがどのような形で問われるのかを知ることができたり、過去に学習したことと関連した問題を解くことで復習にもつながります。
また、数学の授業を聞いているうちは「何となくできる気がする」という状態になりますが、実際に問題を解くことで自分の本当の理解度を把握することもできます。
このように、問題演習を行うことで様々なメリットがあります。
授業動画を利用すれば、一斉授業よりも早く進めることが可能です。
しかしそこは留まって、問題演習の時間に充てるようにしましょう。
私は現在、1回の授業で進むのはプリント2枚にしています。
解説動画は2本で、合計は約7分程度です。
ゆとりをもって進めて演習の時間をしっかり取ることで、基礎事項の定着と成績の向上を図っています。
いかがだったでしょうか。
新しい学習指導要領で掲げられている『個別最適な学び』を提供するために、『生徒個人のタブレット』と『授業動画』は最高の組み合わせだと思います。
授業動画の準備は大変で、スライド作成と録音にそこそこの時間がかかります。
この授業スタイルを継続するためには、働き方改革を進めて授業に集中できる環境づくりが必要です。
『業務削減』は『授業に集中するため』であり、『授業に集中すること』は『生徒のため』となります。
授業改革、ひいては生徒のために、働き方改革にも取り組みましょう!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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