こんにちは。福田泰裕です。
学習指導要領が改訂され、平成30年に新しい学習指導要領が告示されました。
高校では令和3年度(2022年度)の新入生から年次進行で実施されていきます。
この記事では新たに始まる『情報Ⅰ』について、学習指導要領に示されている授業の具体例を紹介していきます。
記事が長くなりすぎたので、章ごとに分けています。
この記事は、『(1) 情報社会の問題解決』に掲載されていた授業の具体例です。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
目次
今回の学習指導要領の改訂により、各教科の科目編成が大きく変わりました。
その中でも、改訂の目玉となったのが『情報科』です。
これまでの『社会と情報』『情報の科学』の2科目に代わって、『情報Ⅰ』『情報Ⅱ』の2科目となりました。
内容がかなり深いものになっただけでなく、なんと大学入学共通テストにも加わるというのだから現場の教員も今まで以上に本気にならなくてはいけません。
しかし、本気になりたくても本気になれない実情があります。
その理由は、現在高校で情報を教えている教員のほとんどが『片手間』だからです。
『片手間』とは、『本来は数学や理科、家庭科で採用されたが、情報科の免許を所持しているので情報の授業を担当している状態』ということです。
それぞれの教員には『本業』の教科があり、情報は専門ではありません。
そのため、大学入試の指導ができるほどの専門性がない(入試指導を行う自信がない)のです。
大学入試に対応するために、どんな授業をすればいいのだろう?
というのが、現場の教員たちの本音なのです。
そんな教員たちの手助けとなるのが、『学習指導要領解説』です。
『情報Ⅰ』について19ページに渡って「こんな授業をしてください」ということが書かれています。
そこには『片手間』で授業をする教員にとっては苦しいほど高度なことが書かれていますが、授業の具体例も多く記載されています。
これらの具体例を授業で行うことが可能か不可能かはさて置き、とりあえず見ておいて損はないはずです。
それでは、学習指導要領解説に記載された授業の具体例をまとめていきます。
それぞれに私の個人的な意見や、授業についての考えも書いているので、参考になれば嬉しいです。
(長くなり過ぎたので、この記事は『(1)情報社会の問題解決』のみです。)
「情報」と「もの」とを比較し,例を挙げて考えることを通して,情報の特性を扱うことが考えられる。また,自分たちの携帯情報端末の利用方法などを,国や自治体等が公開しているデータと比較する活動を通して問題を発見し,解決策を提案するとともに,その活動を自ら振り返ったり,互いに評価し合ったりすることでより適切な利用方法を探究することが考えられる。
【情報編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 24ページ
前半の『「情報」と「もの」を比較しして情報の特性を扱う』というのは、教科書にも載っている事項なので問題ないでしょう。
後半の『自分たちの携帯情報端末の利用方法などを、国や自治体等が公開しているデータと比較する活動』は、スマホに溺れる高校生が多い現代なので、スマホとの付き合い方を考える良い機会になるかもしれません。
例えば、内閣府が毎年発表している『青少年のインターネット利用環境実態調査』というものを利用すると良いかもしれません。
どれくらいの高校生がスマホを所持し、そのスマホを使ってどのようなことを行っているのか…といった調査結果がまとめられています👇
サイバー犯罪などの原因を調べ,対策を考えることを通して,推測されにくいパスワードや生体認証などの個人認証の必要性,ソフトウェアのセキュリティ更新プログラムを適用する必要性,その提供が終了したソフトウェアを使い続けることの危険性を扱うことが考えられる。また,個人情報の保護に関する法律における個人データの例外的な第三者提供について考えることによって,個人情報の保護と活用の在り方を扱うことが考えられる。
【情報編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 25ページ
サイバー犯罪は、日を追うごとに新しい手口の犯罪が登場しており、教科書の記載事項も数年経てば古い情報になってしまいます。
常に新しい情報を仕入れ、対策を考えておくことが重要です。
サイバー犯罪については、警視庁が作成している『サイバー犯罪対策プロジェクト』というWEBサイトに最新の情報や調査結果が詳しく記載されています。
次に『個人情報の保護に関する法律における個人データの例外的な第三者提供について考える』という記載がありますが、これはかなり具体的です。
教科書にも登場する『個人情報の保護に関する法律』の全文は、次のサイトで閲覧することができます。
この『個人情報保護に関する法律』の第23条に、『本人の同意を得ないで第三者に提供できる場合』が記載されています。
(1)法令に基づく場合
[例]
・警察や検察等から、刑事訴訟法に基づく捜査関係事項照会があった場合
・弁護士会から、弁護士法に基づく所要の弁護士会照会があった場合
・地方公共団体や統計調査員から、基幹統計調査に際し、統計法に基づく照会や協力依頼があった場合
・地方公共団体や税務署による税務調査における質問や検査に対応する場合
(2)人の生命、身体又は財産の保護に必要な場合
[例]
・大規模災害や事故等の緊急時に、患者の家族等から医療機関に対して、患者に関する情報提供依頼があった場合
・製品に重大な欠陥があるような緊急時に、メーカーから家電販売店に対して、顧客情報の提供依頼があった場合
(3)公衆衛生・児童の健全育成に特に必要な場合
[例]
・児童虐待のおそれのある家庭情報を、児童相談所、警察、学校、病院等が共有する場合
(4)国等に協力する場合
[例]
・税務署等から、任意の顧客情報の提供依頼があった場合
「個人情報は、何があっても守られるもの」と信じている人にとっては、この例外があることを意外だと思ってしまうかもしれません。
しかし例を見れば分かる通り、本人や他人の命や安全を守るためであれば、第三者へ提供できるようになっています。
ちなみに、この『個人情報保護に関する法律』は平成27年9月3日に改正(平成29年5月30日施行)されています。
それまでは『個人情報保護に関する法律』が適用されるのは『5,000件以上の個人情報を扱う個人情報取扱事業者』のみで、扱う個人情報が5,000件未満の『小規模取扱事業者』は対象外でした。
しかし、平成27年の改訂によってこの『5,000件以上』という条件は撤廃され、法律の適用範囲が『個人情報を扱うすべての事業者』へと拡大されました。
会社の大小、営利or非営利など関係なく、『すべての事業者』が対象です。
学校やPTA、町内会などの団体にも法律が適用されます。
更に、この『個人情報保護に関する法律』は3年ごとに見直すことが規定されており、頻繁に改訂されていく法律です。
令和2年にも改正されており、その概要はPPC(個人情報保護委員会)の資料に掲載されています。
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/200612_gaiyou.pdf
それまでもこの法律に違反した事業者には刑事罰が科せられていましたが、その罰則が改訂によって重たくなるようです。
これらの改訂の理由や時代背景について考える授業も、面白いかもしれません。
SNS などの特性や利用状況を調べることによって,時間や場所を越えてコミュニケーションが可能になったこと,誹謗・中傷などの悪質な書き込みが問題になっていること,いわゆるネット依存やテクノストレスなどの健康面への影響が懸念されていることなどを扱うことが考えられる。また,電子マネーや IC カード,IC チップなどの普及によって,自動改札やセルフレジなどが増加したこと,人工知能やロボットが発達したことなどで,人の仕事内容が変化したことなどを扱うことが考えられる。
【情報編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 26ページ
「携帯電話は高校生になってから…」という時代は、もう終わりました。
今の高校生たちは、中学生の頃から自分専用のスマホを持っているのが当たり前です。
そのため、高校入学時にはすでにSNSに浸かってしまっている生徒も多くいます。
このような『SNSがあって当たり前』の高校生たちにとって、『SNSとは何か?』ということを考えることは重要だと思います。
私たちが「乗用車とは?その特性や危険性は?」という事を本気で考えたことがないのと同様です。
高校生たちにとって『SNSは存在して当たり前なもの』なので、ちゃんと向き合って考えたことは少ないでしょう。
また、スマホでSNSを利用して人間関係のトラブルを引き起こす事例や、SNSが楽しすぎて夜遅くまで熱中してしまい朝起きられずに不登校になる事例…というのは、全国の学校で頻繁に起きています。
現代を生きる高校生たちにとって、スマホとうまく付き合う術を学ぶことは人生においてとても重要なことです。
私がこれまで高校生に授業をしてきた中では、そういった『スマホによって不幸になった事例』を紹介するのがもっとも効果があるように感じます。
総務省が作成している『インターネットトラブル事例集』は、イラスト付きで1事例につき1ページにまとめられているので、とても使いやすいです。
リンクを貼っておくので、参考にしてください👇
https://www.soumu.go.jp/main_content/000707803.pdf
また最近は、科学技術がすさまじいスピードで進歩しています。
電子マネーやセルフレジ、人工知能の発達、ビッグデータの活用など、新しい用語が次々と登場します。
これらの技術の進歩によって私たちの生活は大きく変化しており、これからも変化し続けていきます。
そんな中、内閣府は『日本が目指すべき未来社会の姿』として『Society 5.0』を提唱しました。
Society 5.0 とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)のことです。
そのSociety 5.0 がどのような社会なのかは、内閣府が作成したWebページ『Society 5.0 – 科学技術政策 -』に掲載されています。
授業にそのまま使える動画も用意されているので、とても使いやすいサイトです👇
校内では,生徒会活動の活性化や図書館を魅力的にする活動が挙げられる。生徒会活動における問題や図書館の利用における問題を発見し,それをアンケート調査やインタビュー等を通じて,根拠をもって論理的・合理的な解決方法を提案する活動が考えられる。その際,調査やグループでの合意形成の場面において,メディアの特性を理解しながら情報技術や情報通信ネットワークを効果的に活用し,発表の場面において情報技術を適切に活用することなどが考えられる。
校外では,地域の商店街の活性化計画や,生徒が地域の人々に SNS の使い方を教えるSNS に関する講座の実施計画の提案などが考えられる。商店街の活性化計画では,問題を認識するとともに,それを解決するために,情報通信ネットワーク等を効果的に活用したり,また,情報技術を取り入れることにより,どのような効果が期待されるのかを調査して当事者の立場に立って提案したりすることなどが考えられる。また,SNS 講座の実施計画では,地域の人々が抱える問題を発見するとともに,どのような内容の教室をどのように開催すればよいのか,ということを考え提案することなどが考えられる。
【情報編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 26ページ
校内や校外の問題点や改善点を自分たちで見つけ出して、自分たちで調査し、自分たちで提案するような活動を求められているようです。
問題点や改善点を見つけるためには、まず校内や商店街などについて詳しく知らなければなりません。
そのような身近な話題が地域にあれば良いですが、これは学校の実情に依ると思います。
例えば『私たちの町の人口が減っている!』『学校の定員割れを解消したい!』などの問題点があれば、授業で扱うことができるかもしれません。
また『SNSに関する講座』では、実際に学校の年配の教員を対象に講座を行うという活動も良いかもしれません。
講座を開くためには、講座を聞く人がどれくらいのレベルなのかを知る必要があるので、事前のインタビューも重要です。
授業に協力してくれる教員を探して、講座を計画・実施してみると良いでしょう。
社会に目を向けた例としては,未来の情報機器の提案をすることが考えられる。既にある情報機器や情報技術を調査するとともに,より社会を安全・便利で豊かにするために,それらの技術をどのように組み合わせるかを考えるようにする。その際,機器の本来的な機能を意識したり,どのような技術が開発されると,より便利で効果的になるのかということを考えたりするなど,情報機器の使い勝手,情報セキュリティの問題,速く効率的な動作などを意識することが考えられる。
【情報編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 26ページ
最後に、新しい未来の情報機器の提案も掲げられています。
そのためには既にある情報機器の調査も必要なので、現代の情報技術を知る良いきっかけになるでしょう。
ここでもし生徒が『ぶっとんだ情報機器』を提案しても、それを否定することはしてはいけません。
だって2000年頃に、電話ができて地図が見られて音楽も聴けてネットも見られるスマートフォンなんて、誰が想像できたでしょうか。
今の科学技術の進歩を考えれば、『あり得ない発明』というものはあり得ません。
(ただし、技術的に不可能だと証明されているものはダメです。ちゃんと調べることが大切!)
また、提案した新しい機器を生徒間で交換し、お互いの問題点を出しあう活動も面白そうです。
①現在の機器の利用で感じている問題点や不便な点について考える。
②どのような機器が発明されれば私たちの生活が豊かになるのか考える。
③提案された機器を交換し、問題点を出しあう。
④出された問題点を見て、改善する。
…という授業展開にすれば、有意義な時間になりそうです。
いかがだったでしょうか。
具体的な授業例を挙げてくれるのは嬉しいですが、どれもなかなか高度な活動です。
『サイバー犯罪の原因と対策』について考える授業であれば答えがありますが、『未来の情報機器を提案する』授業は答えがありません。
またこれらの活動が、単に『楽しい活動』で終ってはいけません。
大学入試科目にも加えられることから、これらの探究活動から『深い学び』がなければいけません。
これらの授業を成功させるためには、教師側も入念な準備が必要になってきます。
情報科の教員たちで協力して、良い授業をつくっていきましょう!
『(2) コミュニケーションと情報デザイン』の授業具体例については、後日記事にまとめたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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