こんにちは。福田泰裕です。
数学Ⅱの軌跡の問題を解いていくとき、多くの高校生がはまる落とし穴があります。
それが最後に登場する「逆に計算をたどると…」の部分です。
軌跡の問題の解法だけを覚えていくなら特に気にならないかもしれませんが、本当の意味で理解するためには知っておきたいところです。
今回は、軌跡の問題で「逆に計算をたどる」意味について考察し、解説していきます。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
まずは、簡単な例題で軌跡の問題の解き方を解説します。
例題1
2点 \(\mathrm{A}(-2 , 0) , \mathrm{B}(4,0)\) からの距離の比が 2:1 である点の軌跡を求めよ。
軌跡の問題で、最も基本的な問題の1つです。
軌跡の問題の解法の基本は、求める点を \(\mathrm{P}(x,y)\) とおき、\(x\) と \(y\) の関係式をつくることです。
解答例を示します。
例題1の解答例
求める点を \(\mathrm{P}(x,y)\) とすると、
\(\mathrm{AP}^2 = (x+2)^2+y^2\)
\(\mathrm{BP}^2 = (x-4)^2+y^2\)
\(\mathrm{AP}:\mathrm{BP} = 2:1\) より、\(\mathrm{AP}=2\mathrm{BP}\)
両辺を2乗して、
\begin{eqnarray}
\mathrm{AP}^2 &=& 4 \mathrm{BP}^2 \\
(x+2)^2+y^2 &=& 4\{(x-4)^2+y^2\} \\
x^2+4x+4+y^2 &=& 4x^2-32x+64+4y^2 \\
3x^2 -36x +3y^2 &=& -60 \\
x^2 -12x + y^2 &=& -20 \\
(x-6)^2 + y^2 &=& 4^2 ‥‥‥①\\
\end{eqnarray}
よって、条件を満たす点 \(\mathrm{P}\) は①上にある。
逆に、①上のすべての点は条件を満たす。
ゆえに、求める軌跡は中心 \((6,0)\)、半径 \(4\) の円。
こういった軌跡の問題を解く中で、注意すべき点が1つあります。
それは、解答例の赤文字下線の部分「逆に、①上のすべての点は条件をみたす」という記述です。
私が高校生で初めて軌跡を習った頃は、この一文の必要性が分かりませんでした。
なんかよく分からんけど、軌跡の問題はとりあえず「逆に」と書いておくか‥‥‥
と考えていました。
教科書レベルの軌跡の問題は、
① 求める点を \(\mathrm{P}(x,y)\) とおく。
② \(x\) と \(y\) の関係式をつくる。
③ 「逆に‥‥‥」と忘れずに書く。
この3つの基本事項さえ覚えておけば大丈夫です。
しかし、これだけ覚えたのでは軌跡の問題を正しく理解したとは言えないのです。
軌跡の問題で「逆に計算をたどる」理由を考えていきましょう。
上で紹介した例題の解答で①の式が得られるまでの流れを詳しく見ていきましょう。
2点 \(\mathrm{A}(-2 , 0) , \mathrm{B}(4,0)\) からの距離の比が 2:1 である点の軌跡を求める。
求める軌跡上の点を \(\mathrm{P}(x,y)\) とおく。
条件を満たすように計算していく。
\((x-6)^2 + y^2 = 4^2\) ‥‥‥① という式が得られた。
ここまでで分かることは、点 \(\mathrm{P}(x,y)\) が、 式 \((x-6)^2 + y^2 = 4^2 ‥‥‥①\) を満たすということです。
これって、円①上にあるってことじゃないの?
そうです。
点 P は円①上にあります。
しかし、ある点 P が円①上にあるだけで、円①上のすべての部分に点 P があるのかは分かりません。
つまり本当に「円①上のすべての点が求める軌跡なのか」を確認しなければならないのです。
さらに言い換えると、「もしかしたら円①の一部だけかもしれない」ということです。
よって、この円①は点 P の存在範囲の必要条件にすぎないということになります。
上から下へ進むのが必要条件だったので、逆方向に式が成り立てば十分条件となります。
例題1の解答例の計算を逆にたどってみましょう。
\begin{eqnarray}
(x-6)^2 + y^2 &=& 4^2 ‥‥‥①\\
展開して、\\
x^2 -12x + y^2 &=& -20 \\
両辺を3倍して、\\
3x^2 -36x +3y^2 &=& -60 \\
移項して、\\
x^2+4x+4+y^2 &=& 4x^2-32x+64+y^2 \\
平方完成して、\\
(x+2)^2+y^2 &=& 4\{(x-4)^2+y^2\} \\
つまり、\\
\mathrm{AP}^2 &=& 4 \mathrm{BP}^2 \\
\mathrm{AP}>0 ,\mathrm{BP}>0 なので、\\
\mathrm{AP} &=& 2 \mathrm{BP} \\
\mathrm{AP}: \mathrm{BP} &=& 2:1\\
\end{eqnarray}
よって、円①上のすべての点は条件 \(\mathrm{AP}: \mathrm{BP} = 2:1\) をみたす。
問題ないですよね?
だから、円①上のすべての点は条件をみたす軌跡だと言えるのです。
このすべての計算が、「逆に、①上のすべての点は条件をみたす」の部分にあたります。
単に解答を下からなぞっただけなので省略したということなのでしょう。
でも実は、この「逆に計算をたどる」部分に軌跡の問題の真髄が隠されているのです。
ではなぜ「逆に計算をたどる」部分が重視されないのでしょうか。
それは、教科書の問題が簡単だからだと考えます。
生徒からすると、
「逆に計算をたどると、すべての点は条件を満たす」
…そんなの当たり前じゃん。
なんで書く必要があるの?
と思うのは当然のことです。
必要性を感じさせるには、「当たり前ではない」ということを理解してもらわなければなりません。
「逆に計算をたどる」必要性を感じるために最も手っ取り早い方法が、少し難しい問題にチャレンジすることです。
次のような例題を見てみましょう。
例題2
実数 \(t\) が変化するとき、放物線 \(y = x^2 -2t^2 x + t^4 +t^2 +1\) の頂点の軌跡を求めよ。
計算が優しいので、難易度はそれほど高くありません。
しかし、「逆に計算をたどる」必要性を感じるにはちょうど良い難易度だと思います。
必要条件が求まるまでの解答例は次の通りです。
\begin{eqnarray}
y &=& x^2 -2t^2 x + t^4 +t^2 +1 \\
&=& (x-t^2)^2 +t^2 +1 \\
\end{eqnarray}
頂点を \(\mathrm{P} (x, y)\) とすると、
\(x=t^2\) ‥‥‥①
\(y=t^2+1\) ‥‥‥②
①を②に代入して、
\(y=x+1\) ‥‥‥③
よって、条件をみたす点は直線③上にある。
計算力があれば、ここまでは来れると思います。
しかし、ここで何も考えずに
逆に計算をたどると、直線③上のすべての点は条件をみたす。
と書いてしまうと減点されてしまいます。
一体どこが問題なのでしょうか。
丁寧に、計算を逆にたどってみましょう。
\(y=x+1\) ‥‥‥③
媒介変数 \(t\) を用いて、
\(x=t^2\) ‥‥‥①
\(y=t^2+1\) ‥‥‥②
とおく。
このとき、点 \(\mathrm{P}(x, y)\) を頂点とする放物線(の1つ)は、
\(y=(x-t^2)^2 + t^2 +1\)
展開して、
\(y=x^2 – 2t^2 + t^4 +t^2 +1 \)
気付きましたか?
直線 \(y=x+1\) を媒介変数表示する際に、
\(x=t^2\)
\(y=t^2+1\)
とおいているところで手を止めてください。
\(t\) は実数なので、2乗すれば \(t^2 \geq 0\) です。
つまり、
\(x= t^2 \geq 0\)
\(y=t^2 +1 \geq 1\)
となります。
これは直線③:\(y=x+1\) 上の点のうち、条件を満たすのは\(x \geq 0,y \geq 1\) 部分だけであることを意味しています。
つまり解答の最後の部分は、
逆に計算をたどると、条件を満たすのは直線③上の点のうち、\(x \geq 0 ,y \geq 1\) の部分である。
よって、求める軌跡は
直線 \( y=x+1 (x \geq 0)\)
となります。
計算を逆にたどることで、必要条件「直線 \(y=x+1\) 」から十分条件「直線 \(y=x+1 (x \geq 0)\)」を定めることができました。
このように、逆に計算をたどることで十分条件を考えなければならないような問題に触れることで、「逆に計算をたどる」必要性に気付けると思います。
いかがでしたでしょうか。
今回の記事をまとめると、次のようになります。
軌跡の問題はパターンがハッキリしているので、必要条件を求めるまでは計算力があればたどり着けると思います。
しかし、本当に数学の力が試されるのは十分条件を確認である「逆に計算をたどる」部分なのです。
少し難しい問題にチャレンジして、十分条件が絞られる様々なパターンを覚えていきましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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