こんにちは。福田泰裕です。
センター試験事件簿その5【2010年~2014年】はこちら👇
この2010年を過ぎたあたりから、英語は図で笑いを取りに行くスタイルになり、国語は奇妙な文章で受験生を混乱させる(スピンさせる)など、 センター試験がおかしな方向へ走り出しました。
このスタイルは、2015年以降の顕在です。
最後まで読んでいただけると嬉しいです!
目次
この年も国語は話題となりました。
問1評論は、佐々木敦『未知との遭遇』からの出典です。
なんと、「(注1)ツイッター」について書かれた文章です!
一応、Twitterを知らない受験生への配慮から、注が振ってありました。
(注)1. ツイッター - インターネットにおいて「ツイート」や「つぶやき」と呼ばれる短文を投稿・閲覧できるサービス。なお、閲覧したツイートに反応して投稿することを「リプライを飛ばす」などという。 |
Twitterを知らない受験生がこの注を見て理解できるとは思いませんが、本文の内容はもっと面白いものでした。
自分で調べてもすぐにわかりそうなのに、どういうわけか他人に質問し、・・・ |
ツイッターでも、ちょっとしたつぶやきに対して「これこれはご存知ですか?」というリプライを飛ばしてくる人がいますが、・・・ |
意識的な盗作をわからない人たちもいるわけです。明らかに意識的にパクッているのだけれども、・・・ |
なんと、「ggrks」「クソリプ」「パクツイ」について言及するものだったのです!
ネットには目もくれず勉強に打ち込んだ受験生は、この内容を理解できたのでしょうか?
しかし、Twitterを知っている受験生も動揺しながら解いたと思います。
ある意味、現代文にふさわしい内容だったのかもしれません。
国語がこのように話題となりましたが、2日目の「数学ⅡB」も話題となりました。
この年の「数学IA」は平均が6割を超える易しい問題だったため、受験生は安心していました。
そして「数学ⅡB」の試験が始まり、問題冊子をめくると第1問が始まります。
いきなり手が止まります。
「7θって…なに?」
と思いますが、頑張って計算すれば「ウ」「エ」まではたどり着けます。
しかし…
ここで再び手が止まります。
「コサインの合成?そんなのあったっけ…?」
サインの合成は当然覚えるべき超基本事項なのですが、コサインの合成は見たことのない受験生が多かったはずです。
実はこれ、コサインの加法定理から逆算すれば良いのですが、過去問を繰り返し演習して対策してきた受験生にとっては超難問だったようです。
さあ、この問題を諦めて1枚めくると……
連立方程式のようですが…あまり見たことのない形をしています。
「連立方程式は1文字を消去すればよい」ということが分かっている受験生にとっては何てことない問題なのですが、「連立方程式は加減法か代入法で解くもの」としか覚えていない受験生はここも成す術がなかったでしょう。
加法定理や連立方程式などの事項を「単に覚えているだけではダメ」というメッセージなのでしょうか。
それにしても、第1問からこの仕打ちは厳しすぎます……。
第1問でほとんど解ける問題がなかったかもしれませんが、「第2問からは気を取り直して頑張ろう!」と1枚めくると……
「へ、平均変化率……?」
教科書には載っていますが、初の出題となった「平均変化率」を問う問題。
[平均変化率]=[yの増加量]/[xの増加量]
たったこれだけのことですが、過去問しか見ていない受験生はここでも困ったことでしょう。
さて、第3問に目を移しましょう…。
「ア」~「オ」は代入するだけなので良いのですが、「カ」以降は難しいです。
謎の漸化式を前に、受験生は絶望したことでしょう。
ちなみにこの「オ」の部分。(2)以降の問題へのつながりを考えると正解は③なのですが、(1)だけで考えると⓪も正解だったため、⓪と③の両方を正解としました。
ただし、⓪が正解であると導くには相当の学力が必要であり、そのような受験生が③に気付かないということは考えられないため、特に配慮はなされませんでした。
そして、ラスト第4問のベクトルはいたって普通の問題だったのですが、すでに受験生のライフは0となっており、平常心では臨めなかったはずです。
最終的に、この2015年の数学ⅡBの平均点は39.31点。
これまで「最も難しかった」と言われていた1998年の数学ⅡBの平均点41.38点を更に2点も下回る結果となりました。
「サインの合成ができれば大丈夫!」「平均変化率なんて出ないから、微分と積分をやれ!」「数学的帰納法なんて出ないから他のところを勉強しろ!」などと言っていた塾講師や教員が多かったと思いますが、この年以降は「何が出るか分からない」という恐怖におびえながらの試験対策になるのでした。
この年の国語の評論は土井隆義『 キャラ化する/される子どもたち―排除型社会における新たな人間像」』からの出典となりましたが、またも話題をさらう文章でした。
本文中に「やおい」「メイドカフェ」が登場しました。
ちゃんと注釈があり、
(注) 6.「やおい」などの二次創作 - 既存の作品を原作としては性的な物語を作り出すことを「二次創作」と呼ぶ。原作における男性同士の絆に注目し、その関係性を読みかえたり置きかえたりしたものを「やおい」と呼ぶことがある。 |
(注) 9. メイド・カフェ - メイドになりきった店員が、客を「主人」に見立てて給仕などのサービスを行う喫茶空間。 |
という説明もつけられました。
これを全国50万人の受験生が読んだと考えると、不思議でなりません。
そしてセンター試験といえば、毎年Twitterでリカちゃんの公式アカウントが応援してくれる慣例がありました。
2016年のセンター試験前日のツイートがこちら
これに対して、「ありがとう」「頑張ってくるよ!」などのコメントが多くついていました。
しかし試験本番で、
なんとリカちゃんが登場!
それによってリカちゃんのアカウントには
「死ね」「お前のせいで落ちた」
などの書き込みが多く行われました。
しかし全体的には大幅に易化し、平均点は8年ぶりに120点を超える結果となりました。
めでたしめでたし。
もうセンター試験の国語の暴走は止まりません。
2017年の小説は野上弥生子『秋の一日』からの出典でした。
秋の一日、主人公の直子が2歳になる子供と一緒に文部省美術展覧会を見に行くことになり、会場に着くまでの出来事と、会場内での出来事が描かれています。
この後半。
会場内で女の裸体像を見つけた子どもが
「おっぱい、おっぱい」
と言葉を発し、同行した女中や主人公が笑ってしまう、というお話です。
作者は子どもの無邪気さを描きたかったのでしょうが、17~18歳の高校生にとっては衝撃的な文章でしょう。
しかもセンター試験の場。
これで動揺せずに本文を読まなければならないのだから、大変です。
そして、日本史Aではこんな問題が出題されました。
正解は①です。
しかしこの問題……もうネタに走っているとしか考えられません。
そして、英語(筆記)の第5問。
「アーーーーー!」 大きなあくびで目が覚めた。 なんとすがすがしい朝だろう! いつもよりも冴えているように感じた。 鳥のさえずりがよく聞こえる。 階下からコーヒーのにおいがする。 腕を伸ばして背中を起こすととても気持ちが良い。 直立して、手を舐め、顔をきれいにする……え?……何かがおかしい。 どうして舌で自分の手を舐めてるんだ? どうして身体に毛が生えてるんだ?何か言おうとしたが、口からは『ニャー』という音しか出なかった。 |
「Ahhhhhhhhhhhh!」も印象的ですが、内容がオカシイです。
朝起きるとネコになってしまった人間のお話。
2016年8月に上映された、男女が入れ替わってしまうというストーリーの映画「君の名は。」を意識したかのような内容です。
この年は「地理B」が話題となりました。
昨年のリカちゃんやロボニャンに続き、今年はムーミンが登場しました!
しかも「フィンランドに関するものを選べ」という問題です。
正解は②なのですが、これに対して
「ムーミンの舞台はムーミン谷であって、フィンランドであるとは断定できない」
と屁理屈を言う人たちが現れました。
これは一体、何を聞かれているのでしょうか。
ムーミンの知識を聞かれているのでしょうか。
実はこの問題にはちゃんとした解き方があります。
まず、「チ」のアニメのタイトル「小さなバイキングピッケ」です。
バイキングとは800年~1050年ころ、西ヨーロッパ沿海部・バルト海沿岸地域の海賊です。
彼らは北方系ゲルマン人であり、ノルウェーはゲルマン民族の国家であることを考えると、「チ」がノルウェーのアニメであることが推測でき、消去法でフィンランドは「タ」のムーミンとなります。
また、ヒントに
スウェーデン語が「ヴァッ コスタ デッ」と書かれています。
そこで、スウェーデンとノルウェーは同じゲルマン民族なので言葉が似ているはずだと推測できれば、消去法で「B」がフィンランド語となります。
知識偏重ではダメ!知識と問題文からノルウェーのものを推測させ、消去法でフィンランドを選ばせるというなかなかよく考えらえれた問題です。
「日本史B」の第1問は、次のような問題でした。
「くまモン」「ふっかちゃん」「ひこにゃん」「出世大名家康くん」といった、有名なゆるキャラたちの名前が挙がっています。
この年、久々に「国語」が本気を出します。
国語の第3問の古文は、中世に書かれた『玉水物語』から出題されました。
姫様に一目惚れした狐は、姫様に近付きたいと願います。
しかし男に化けて結婚してしまっては姫様に迷惑がかかってしまうと悩み抜いた結果、娘に化けて恋心を隠して姫様に近づき、お傍に仕える者として気に入られようとします。
狐娘は「この恋心を姫に打ち明けるわけにはいかない」のような葛藤もあり、なかなか熱い展開になります。
この『ケモノ百合物語』は、のちにネットでイラストが描かれたり、擬人化されたりと大変話題になりました。
1日目の最後の科目であるリスニング試験。
この疲れた状態の受験生のために用意されたとっておきの問題が出題されました。
第1問からこれです。
これは笑わずにいられません。
男性: We need an idea for a new cartoon charactor. (新しい漫画のキャラクターのためにアイデアが必要だね。) |
女性: I agree. How about a vegetable? (そう思うわ。野菜なんてどう?) |
男性: That sounds OK. But, for a stronger impact, give it wings to fly. (それは良いね!でも、より強いインパクトのために飛ぶための羽を与えよう。) |
女性: Good idea. (良いアイデアね!) |
つまり正解は「羽の生えた野菜」なので、②のニンジンです。
疲れた状態で1ページ目からこのイラストが並ぶと、思わず吹き出してしまいそうです。
そしてこの年、「国語」の時間に不正行為をして全科目無効となった受験生がいました。
その内容は、なんと定規を使用したということ。
「国語で定規?」と思われるかもしれませんが、センター試験の「受験上の注意」にはどの科目でも試験時間中に定規を使用することは禁止されています。
禁止行為であるから仕方ないのかもしれませんが、数学ならともかく国語でこの処分は重過ぎるのでは、と話題になりました。
いかがでしたでしょうか。
知識偏重の入試を改革しようという思いは伝わりますが、奇問が多くなってきた印象があります。
共通一次試験からセンター試験に変わったのも「難問、奇問ではなく良質な問題を」という理由からでした。
センター試験も回数を重ねてくると、同じように変わった問題を出題せざるを得なくなったのでしょう。
センター試験事件簿、最終回はこちら👇
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